§ 構造編 |
建築関係者以外の方への説明を最初に行いますと、4号物件とは建築基準法第6条1項4号に該当する建物で、わかりやすく大雑把に分類すると、木造2階建までの住宅という事になります。
4号物件では、建築士の設計によるものは建築確認で特例が認められていて、政令で定められた規定は審査しない事になっています。
審査しないからと言って法律を守らなくても良いかというとそうではありませんが、実際は法令違反があるかもしれません。
あるかも、と微妙な言い回しをしたのには理由があって、設計者として意識的に違反したわけではなく、結果的に違反だったという事が多々あると想像されるからです。
例えば、採光という決まりがあります。
採光とは、居住等で継続的に使用する部屋を居室と定義し、採光に有効な開口を確保せよという内容ですが、4号物件では審査しないので検討書は不要という事になります。
検討書の内容まで書くと長くなるので此処では割愛しますが、審査しない検討書をわざわざ作成する設計者は少ないと思います。(以前、計算結果がギリギリだったので確認申請に添付したら、不要だから削除してくれと言われました)
例えで取り上げた採光は、他人に迷惑をかける内容でもなければ命に係わる問題でもありませんが、構造関係となるとそうはいきません。
木造の建物強度は壁を設けるか筋かいを入れた軸組みで決まります。
建築基準法では、その軸組みを釣り合い良く配置いなければならないと記してあり、計算方法も示してありますが、その計算書も特例扱いで審査しない事になっています。
さすがに筋かい計算は居住者の生命に係る問題ですから、いくら4号物件だからと言って計算しない設計者はいないと思いますが(信じたいです)、そこに大きな落とし穴があるのです。
先の熊本地震では多くの木造建物が全壊、又は半壊しました。
基準法改正後に建てられた比較的新しい建物でも被害が出ているという事で、国交省でも調査するというニュースがありました。(もうおこなっているのかもしれませんが正式な報告書は読んでいません)
そのニュースの中で興味深いコメントがありました。
現地を調査した専門家の話として、「筋交いの向きのバランスが取れていない」という事を紹介していました。
筋交いというのは壁の中に入れる斜め材です。
右肩上がりの筋かい|/|と、左肩上がりの筋かい|\|をバランス良く入れる必要がありますが、倒壊した建物はどちらか一方にだけ集中していたという事です。
例えば以下のような建物があったとします。
(8帖一間で玄関の無い建物なんてあり得ませんが……笑)
一般的には構造用合板を併用する場合が多いですが、判りやすいように筋かいだけにしています。
四隅の直角三角形の記号が筋かい記号で、斜辺の方向が筋交いの向きを表します。
平面図では判りずらいですが以下の軸組図(立面図)だと一目瞭然だと思います。
左右にバランス良く配置されています。
しかし、以下のように記号を変えて申請しても問題なく通ってしまいます。
なぜなら、筋かいの方向までは審査しないからです。
上記の例では専門家が見ると明らかに不自然に見えますが、↓ こんな風に記号を変えると筋かいの向きが判らなくなるので構造上の欠陥が隠れてしまいます。
以下の軸組図(立面図)を見てください。片方だけに偏っていかにもバランスが悪そうですよね。
こんなに極端にバランスが悪いと、少しの揺れの地震でも倒れてしまうでしょう。
以下は4号物件で行う一般的な筋かい計算の一例です。
軸組み長さだけの計算なので判定でNGは出ていません。
これはエクセルで作った計算書ですが、単純な掛け算だけなので数行の手書きのメモで可能です。
経験豊富な設計者ならばこんな極端な設計はしないと思いますが、つまり、建築基準法が求めているのはこの程度だという事です。 ↓クリックで拡大します。
そこで、ついでにこのバランスの悪い形状の建物を、木造3階建の建物で要求される「許容応力度設計ソフト」を使って解析してみました。
以下のように見事にNGが出ています。
住宅建築をお考えの皆さんは、確認許可が出たからといってお墨付きをもらったと勘違いしないで、信頼のおける建築士へご相談することをお勧めします。
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