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建築基準法に物申す(4)-日影規制 建築関連での独り言 / 建築基準法に物申す |
1204-2016 |
「建築基準法に不満あり」と、実務を経験したことのある人は多かれ少なかれ誰しも感じていることでしょう。 という事で、今回は「日影規制」について。
最初に引用。 第五十六条の二 別表第四(い)欄の各項に掲げる地域又は区域の全部又は一部で地方公共団体の条例で指定する区域(以下この条において「対象区域」という。)内にある同表(ろ)欄の当該各項(四の項にあつては、同項イ又はロのうちから地方公共団体がその地方の気候及び風土、当該区域の土地利用の状況等を勘案して条例で指定するもの)に掲げる建築物は、冬至日の真太陽時による午前八時から午後四時まで(道の区域内にあつては、午前九時から午後三時まで)の間において、それぞれ、同表(は)欄の各項(四の項にあつては、同項イ又はロ)に掲げる平均地盤面からの高さ(二の項及び三の項にあつては、当該各項に掲げる平均地盤面からの高さのうちから地方公共団体が当該区域の土地利用の状況等を勘案して条例で指定するもの)の水平面(対象区域外の部分、高層住居誘導地区内の部分、都市再生特別地区内の部分及び当該建築物の敷地内の部分を除く。)に、敷地境界線からの水平距離が五メートルを超える範囲において、同表(に)欄の(一)、(二)又は(三)の号(同表の三の項にあつては、(一)又は(二)の号)のうちから地方公共団体がその地方の気候及び風土、土地利用の状況等を勘案して条例で指定する号に掲げる時間以上日影となる部分を生じさせることのないものとしなければならない。ただし、特定行政庁が土地の状況等により周囲の居住環境を害するおそれがないと認めて建築審査会の同意を得て許可した場合においては、この限りでない。
1976年の建築基準法改正で導入された条文です。
わたしが新卒で設計事務所に入社したのが1978年ですからその少し前という事になります。 この文章を読んだだけでは日影図なんて書けるわけがないですから、当然解説本とかがあったはずです。 しかし、当時の先輩方はまだ解説本を読んでいなかったと見えて、条文の中にある「道の区域内にあつては、午前九時から午後三時まで」の〝道〟を〝みち〟と思っていたそうです。 本当は〝北海道〟の〝どう〟です。 つまり、北側に道路がある場合は9時から3時までと勘違いしていたわけですね。 今となっては笑い話ですが、別表4にも「道の区域内にあっては」と書いてあるし、確かに初めて目にする人は間違うかもしれません。道の前に北海の2文字を付け足すだけなんだから、紛らわしいことをしないでもらいたいと思いますよね。建築基準法って不親切だな~
この条文、簡単に解説すると、中高層建築が数多く建ち始め、いわゆる日照権訴訟が頻発したために導入されたものですが、その基準を守っているからといって裁判等に勝てるかというとそうでもないようです。 歴史も権威も段違いの民法で定められた基準ならば判例に従うのでしょうが、あちこちでザル法と揶揄されている建築基準法ですからね裁判官も事案毎に判決を出さざるを得ないのでしょう。
前置きが長くなりましたが、この条文の具体的な中身は、敷地境界から、5m、10mのラインを設定してそのラインを越えて一定以上の日影を生じさせないように建築物の形態を制限するものです。 先ほどの〝道の区域〟というのは北海道は緯度が高く影が長く伸びるので8時~16時を9時~15時に縮めていますし、そのぶん規制も0.5時間~1時間短くしています。
本来、決め事というのは平等でなければならないと思っていますが、「採光」の件と同じく、この日影規制も用途地域によって日影を生じさせない時間が違います。 しかも日影は地域によって太陽高度が違うのに、上で述べた〝道の区域〟だけ区別して九州はしていません。 区別しないというのは逆の意味で差別していることになります。
住んでいる場所が違うんだから良いんじゃないの? と思われるかもしれませんが、建築基準法 第1条の財産の保護という法の精神に則ると明らかに矛盾しています。
例えば、第1種低層住居専用地域(3h-2h)に高さ10mの建物を建てた場合について、日本の北に位置する青森と南に位置する鹿児島でシュミレーションしてみます。 (北海道は条件が違うので除きました)
以下は青森の等時間日影図(北緯40.80°) 建物中心の真北方向10m地点(A点)で日影時間は2時間10分 5m地点(B点)で日影時間は3時間02分 ※2時間の影を生じさせる線と3時間の影を生じさせる線がそれぞれ10mと5mラインを超えています。
以下は鹿児島の等時間日影図(北緯32.00°) 建物中心の真北方向10m地点(A点)で日影時間は0分 5m地点(B点)で日影時間は2時間48分 ※2時間の影を生じさせる線と3時間の影を生じさせる線がそれぞれ10mと5mラインを超えていません。
明らかに影の伸び方が違うのが判ると思います。 同じ広さの敷地に同じ大きさの建物を建てようとしたら青森は許可にならず、鹿児島は許可になります。 北側隣地の人にとっても建築主にとっても差別しているという事になります。
ついでなので札幌も書いてみました。 9時~15時(北緯43.05°) 建物中心の真北方向10m地点(A点)で日影時間は2時間13分 5m地点(B点)で日影時間は3時間04分
日影になる時間はA点B点共に青森と大差ありませんが、確認申請上は2h-1.5hなので完全にアウトで不許可です。 日影規制だけをとってみると、建築基準法は建て主にとっては北に行くほど厳しくなりますが、逆に近隣住民にとっては有難いという結果になりました。
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建築基準法に物申す(5)-容積緩和① 建築関連での独り言 / 建築基準法に物申す |
1207-2016 |
「建築基準法に不満あり」と、実務を経験したことのある人は多かれ少なかれ誰しも感じていることでしょう。 という事で、今回は「容積緩和」について。
大きな事故や事件が発生する度に避難や設備・構造の規制が強化されますが、大衆迎合的思考から緩和される部分も多くあります。 時の政権(大臣?)の人気取りという側面もあるかもしれませんが理由は何であれ、民間の建築は経済活動の一つですから何事も緩和されるのは歓迎です。
集団規定の大部分を撤廃、又は大幅な緩和をすればもの凄い景気刺激策になると思いますが、まさかそんなことは不可能でしょう。自分達の権威が失墜しますからね(笑) そこで国交省は上からつつかれるたびに渋々緩和策を小出しにします。 毎年のように建築基準法改正が行われるのはその為です。
例えば共同住宅の共用部分の容積不算入です。 土地の値段が上がり過ぎ、建設費用を加味すると売れる値段でマンションを供給出来ないか、仮に供給しても一般消費者には手が出せずに結果として市場が冷え込むことになります。 そこで容積を緩和し販売面積が増えれば販売価格も下がるのでマンション業界が活性化する、という目論見です。 超概算ですが、中廊下・中階段・エントランスホール・エレベーターホール等が容積不算入になると約10%~20%延べ床面積が増えます。増えた分建設費もかさみますが差し引きして約5%~10%位はマンション価格が下がるのではないでしょうか(あくまでも個人的な概算です)
先ほど廊下・階段・エントランスホール・エレベーターホール等と書きましたが、これには何故かエレベーターシャフト(昇降路)が含まれていません。 「共同住宅の共有部分の廊下や階段などの床面積を、容積率から除外する」改正は1997年ですが何故含まれていなかったのか当時から多くの人が疑問を持っていました。
平成26年になってようやくエレベーターの昇降路(シャフト)も容積緩和の対象になりました。しかも全ての建物が対象です。 エレベーターの昇降路なんて何もないただの吹き抜けですよ。廊下や階段が緩和になった段階で同時に緩和すべきものなのに17年も放っておく意味が全く判りません。 まあこうした場当たり的な法改正がいかにも建築基準法らしいですね(皮肉ですよ国交省さん……)
容積緩和には他にも、駐車場等の緩和、住宅部分の地下緩和、防災・減災施設の容積率不算入、老人ホーム等云々など数多くありますが、いかにも場当たり的と思わせる痕跡がこの書類です。
↓ 以下は約20年前(1996年)頃の確認申請書の一部です。 第3面(クリックで拡大します)
これが、最新のものとなると ↓ こんな風に変わっています。 同じく3面(クリックで拡大します)
延べ面積の項目ですが、20年前は駐車場と住宅部分の2項目しかありませんが、最新のものはなんと10項目もあります。
例えば、共同住宅の一部に老人ホームと駐車場があり、更にエレベーターがあって地下に貯水槽や備蓄倉庫、蓄電設備、自家発電設備がある場合はそれぞれ面積別けして1/3か1/5かを判定して……。と、もの凄く複雑な計算を強いられることになります。
事務手続きが煩雑になるだけならまだしも、後々の監理はどうするんだろう? 国交省は通達を出して、特定行政庁に台帳を整備して建築後の転用を防止しろと言ってますが、こんなにがんじがらめにしちゃうと10年後、20年後に変更確認申請を出さなきゃいけなくなったときに適正に処理出来るのかどうか怪しいものです。
他にも容積緩和は突っ込みどころ満載ですが、続きは以降に……
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建築基準法に物申す(6)-容積緩和② 建築関連での独り言 / 建築基準法に物申す |
1210-2016 |
「建築基準法に不満あり」と、実務を経験したことのある人は多かれ少なかれ誰しも感じていることでしょう。 という事で、今回は「容積緩和」その②について。
前回は場当たり的な法改正がいかにも建築基準法らしいという事を書きました。 続いては国交省と特定行政庁のバトルです。
バトルの原因は1994年に改正された地下緩和です。
以下、引用 第五十二条 建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「容積率」という。)は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める数値以下でなければならない。ただし、……
中略
3 第一項(ただし書を除く。)、前項、第七項、第十二項及び第十四項、第五十七条の二第三項第二号、第五十七条の三第二項、第五十九条第一項及び第三項、第五十九条の二第一項、第六十条第一項、第六十条の二第一項及び第四項、第六十八条の三第一項、第六十八条の四、第六十八条の五(第二号イを除く。第六項において同じ。)、第六十八条の五の二(第二号イを除く。第六項において同じ。)、第六十八条の五の三第一項(第一号ロを除く。第六項において同じ。)、第六十八条の五の四(ただし書及び第一号ロを除く。)、第六十八条の五の五第一項第一号ロ、第六十八条の八、第六十八条の九第一項、第八十六条第三項及び第四項、第八十六条の二第二項及び第三項、第八十六条の五第三項並びに第八十六条の六第一項に規定する建築物の容積率(第五十九条第一項、第六十条の二第一項及び第六十八条の九第一項に規定するものについては、建築物の容積率の最高限度に係る場合に限る。第六項において同じ。)の算定の基礎となる延べ面積には、建築物の地階でその天井が地盤面からの高さ一メートル以下にあるものの住宅又は老人ホーム、福祉ホームその他これらに類するもの(以下この項において「老人ホーム等」という。)の用途に供する部分(第六項の政令で定める昇降機の昇降路の部分又は共同住宅の共用の廊下若しくは階段の用に供する部分を除く。以下この項において同じ。)の床面積(当該床面積が当該建築物の住宅及び老人ホーム等の用途に供する部分の床面積の合計の三分の一を超える場合においては、当該建築物の住宅及び老人ホーム等の用途に供する部分の床面積の合計の三分の一)は、算入しないものとする。
なんとも酷い条文ですね。読むのがイヤになっちゃいます。 付け足し付け足しの連続の法令なのでこんな文章になってしまうのでしょうね。 肝心な部分だけ抜粋&要約します。
建築物の地階にあるものの住宅の用途に供する部分は、床面積の三分の一まで算入しないものとする。(当初は老人ホームは適用外だった) となります。
1/3ってすごく大きいですよね。大盤振る舞いです。 おそらく国交省としては、2階建の住宅に地下1階分だけボーナスとして差し上げよう、どうせ地下なんだから外部からは見えないし……、的な考えだったのでしょうね。 住宅を戸建て限定にしなかったのは国交省のミスだったのか意図的だったのかは判りませんが、少なくとも絶対高さ10mの第1種低層住居専用地域に地上3階地下6階のマンションが建つなんて想像もしていなかったことでしょう。
いわゆる地下室マンションです。 「地下室マンション」でぐぐると近隣住民との紛争事例が多く現れ、そのほとんどが近隣住民サイド寄りの内容で、地下緩和を改悪扱いしている記事も散見されます。 景気刺激策からの容積緩和が改悪なのかの判断は法の専門家にお任せするとして、ここでは建築設計者の立場から私見を述べたいと思います。
法律にも違反していないしやましいことは何もない、とする建築主側と近隣住民との紛争事例が現在も進行中なので、地下室マンションの是非はここではコメントしませんが、慌てたのは自治体側です。 神奈川県、東京都、大阪府、兵庫県などで紛争が相次ぎました。 横浜市は国土交通省に対して「地階の容積率参入の除外」の見直しの要望書を提出したが受け入れられなかった。 ならば、という事で横浜市は条例で地下室マンションを規制することにしたわけですが、われわれ設計者から見れば両方とも〝お上〟です。決められたことに対して、特に建築基準法は自身で認めるように〝最低限の基準〟なのですから、その範囲内で知恵を絞るのが設計者の立場です。 国が大局的な見地で推進する事案に対して地方自治体が真逆な態度をとるという事は、国民に不利益を与えかねません。
今では多くの自治体が条例化していますが、一番身近な自治体なので横浜市の例を取り上げます。 「横浜市斜面地における地下室建築物の建築及び開発の制限等に関する条例」 なんとも長ったらしい条例名ですが、国の規制緩和に対して、逆に強化する内容になっています。 概要だけを述べると、地下室を有する建築物は高さを制限し、階数を制限し、緑化も強化する、という内容です。(「地下室」は住居部分だけではなく、付随する駐車場や機械室も含まれるのがポイントです) 特に緑化の義務は境界線から4m以上のグリーンベルトを設けて近隣住民への圧迫感を緩和しろという厳しい内容で、事実上地下室マンションの建設を断念させる為の条例です。
平坦な土地では普通に行われる事ですが、消火ポンプ等の設備や水道水の送水ポンプ、変電設備等を収納する部屋は窓等は必要では無く、必然的に地下に配置することが多々あります。 しかし、たまたま敷地内に3mを超える地盤の高低差があるとそれらは地下に設けられなくなります。 建設を断念させる条例に引っかかるからです。 地下に居室を設けているわけでもなく、面積を増やしているわけでもないのに、付帯設備がたまたま地下にあるだけでこの条例に当てはめて規制するというのは過大解釈、逆差別以外の何物でもありません。 100戸を超えるような大規模マンションの敷地は面積も広く、3m程度の高低差があるのは山坂の多い横浜ではよくあることです。地下階を一切認めない(地下階があると過剰な義務が生ずる為に地下階に出来ない)というのは近隣との紛争予防というよりは、面倒なことに巻き込まれたくないという役所の事なかれ主義以外何ものでもないでしょう。
もう一つ困った問題があります。 各自治体が条例を制定する前に建てられたマンションはすべて既存不適格になってしまっているという事です。 違反建築物ではないので居住し続けるのには問題はありません。 しかし、建て替えでは同じ規模の建築物は建てられません。 建て替えまでには恐らく50年以上の時間的余裕があるのですぐには問題にならないでしょうが、いづれは発生する問題です。 そういった事情から、マンションの資産価値も下がるかもしれません。買い替えにも影響するでしょうね。 これまでの地下室マンションに係る紛争は、開発業者と近隣住民との間での争いでしたが、これからはマンションの購入者(居住者)と開発業者、もしかすると条例を制定して既存不適格建築物を作ってしまった自治体をも含んだ争いになるかもしれませんね。
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用途変更での注意点① 建築関連での独り言 |
2016年12月13日 14:41 (TUE) |
建築基準法は不親切な法令なので、何が何処に書いてあるかを把握することがとても大切です。
既存の建物の用途変更は確認申請が必要だと頭では判っていても建築基準法のどこに書いてあるのかを探すのは一苦労です。 用途変更に限らず、基準法と施行令、施工規則を行ったり来たりしながら目的の条文を探すなんてことは日常茶飯事です。1級建築士試験をクリアするための第一歩がこのパズルのような法令を読み崩すことにあるというのもあながち嘘ではありません。
という事で、確認申請関係を定めている第6条を開いてみますが、……ありません。 大規模の修繕、大規模の模様替はありますが用途変更については一言の記述もありません。 分厚い「建築基準法関係法令集」をペラペラ捲っていると、ようやくありました。第87条に。 こういうところがいかにも建築基準法らしいです。 いつも思う事ですが、建築基準法というのはひじょうに不親切です。 「建築基準法に物申す(2)-階段」でも取り上げましたが、一度安心させておいて、実は……、というのがあちらこちらにあります。 ひっかけ問題でも作っている気になっているんでしょうか、国交省の役人って。
少し脱線しましたが、建築物の用途を変更して第六条第一項第一号の特殊建築物のいずれかとする場合には確認申請が必要となります。
第六条第一項第一号には 「別表第一(い)欄に掲げる用途に供する特殊建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が百平方メートルを超えるもの」とあります。
次の(1)~(6)がその特殊建築物です。
(1)劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場その他これらに類するもので政令で定めるもの (2)病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類するもので政令で定めるもの (3)学校、体育館その他これらに類するもので政令で定めるもの (4)百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場その他これらに類するもので政令で定めるもの (5)倉庫その他これらに類するもので政令で定めるもの (6)自動車車庫、自動車修理工場その他これらに類するもので政令で定めるもの
上記の特殊建築物以外(例えば事務所)から特殊建築物に変更する場合は確認申請が必要で、その逆は不要という事になります。
例 事務所 → 物販店舗(コンビニ) = 確認申請が必要 共同住宅 → 事務所 =確認申請は不要
では特殊建築物から特殊建築物の場合はどうなるかというと、当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるものである場合を除く。とあるので、同じカテゴリー同士の場合は用途変更の必要性が無い場合もあります。 類似の用途は、令137条の9の2、に記述があります。
つづく
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用途変更での注意点② 建築関連での独り言 |
2016年12月15日 10:12 (THU) |
建築物の全部または一部を特殊建築物の用途に変更する場合、その用途に供する部分が100㎡を超えるときは用途変更の確認申請をしなければいけません。 コンビニの適正な面積は40~50坪と言われているので、テナントビルの1階にあるようなコンビニは殆どが用途変更の対象だと思われます。
老人介護施設・児童福祉施設、つまり老人ホームや老人ケア施設、保育園等、これからも需要が増え続けるであろうと思われる施設も例外ではありません。
確認申請は建物単位の申請の為、例えば10階建ての様々なテナントが入っている雑居ビルの1階部分だけの用途変更でも建物全体の申請が必要になります。 これは所有者の異なる、いわゆる「建物の区分所有等に関する法律」の対象建物でも同じです。 分譲マンションの1階の片隅にあるような店舗でも100㎡を超えればマンション全体を対象に用途変更の確認申請が必要になります。
ここで注意しなければならないのは申請の不要な100㎡以下の用途変更でも建築基準法や消防法に適合させなければならないという事です。例えば事務所だったら必要のない『非常照明』が店舗だと必須になります。
それからもう一つ注意しなければならないのは100㎡は「トータルで」という事です。 1階に貸事務所が2カ所有ってそれぞれが80㎡だったとします。一つの事務所を物品販売の店舗に用途変更した時は100㎡以下なので申請の必要はありませんが、続けて二つ目の事務所を特殊建築物に指定されている用途に変更した時は最初に用途変更した店舗を含めた建物全体での申請となります。
もし一つ目の用途変更の際に非常照明が無いなどの違反があると二つ目の用途変更の際には確認申請が不許可になってしまいます。後追いで一つ目の店舗にも非常照明を追加するなどの工事を行えば許可にはなりますが、費用や工事中の営業補償などの問題が発生するでしょう。
通常、テナントビルの入居者探しは不動産業者が行います。 賃貸契約の際の重要事項説明書には法的なことも書く必要があるので、建築基準法や用途変更に詳しくない不動産業者は役所の建築課(建築指導課等)に行って「80㎡ですから確認申請の必要はありません」と証言をもらって書くかもしれません。 役所の担当者は前後関係を知りませんから、聞かれなければ今現在の状態を答えるので間違ってはいません。
誰にも責任の持って行きようの無い状態のまま違反建築物になっている可能性もあるので注意が必要、というお話でした。
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国立マンション訴訟合戦終結 建築関連での独り言 |
2016年12月16日 16:42 (FRI) |
国立マンション訴訟関係の最後の争いが確定しました。 マンション計画が明らかになったのは1999年8月なので17年間掛かったことになります。 JR国立駅から南に伸びる銀杏・桜並木の美しい大学通りでの騒動は、度々テレビニュースでも取り上げられていたのでご存知の方も多いと思います。
私もだいたいの流れは把握していましたが、改めて振り返ってみたいと思います。 Wikipediaから抜き出して簡単に経過を時系列で表してみます。
1999年8月 開発行為の事前協議の届出を市に行う。(この時は18階建) ↓ (上原市長が別件のマンション反対運動集会で計画をばらす。) (注・この市長の名前が後で出ます) ↓ 1999年10月 紛争予防条例に基づく標識を設置。 ↓ 1999年11月 国立市が「中三丁目地区計画」案を策定し、公告縦覧を始める。 ↓ 1999年12月 東京都多摩西部建築指導事務所に建築確認申請を提出 ↓ 2000年1月 建築確認取得、同日中に根切り工事に着手。 ↓ 2000年1月 31日の臨時市議会で地区計画条例が可決、翌2月1日に施行。 (尚、制定反対派の市議や市議会議長が議会をボイコットし後に控訴している。) ↓ 2000年6月 反対住民がマンションの建築禁止の仮処分を地裁に申し立てるも却下。 ↓ 2000年12月 同上の抗告、高等裁判所で却下、確定。 ↓ 2001年12月 14階建、高さ44mのマンションが完成。翌年から分譲開始。 ↓ 2001年12月 反対住民が東京都に対して撤去命令を出すようにという行政訴訟で、東京地裁は是正命令を出さないことは違法であるとの判決をだす。(地区計画条例施行時には根切り工事しか行われていないため違法建築に当るとの判断) ↓ 2002年6月 上記の東京高等裁判所での控訴審では根切り工事は着工とみなし、第1審判決を取り消す。(最高裁判所へ上告受理申立も不受理となり、控訴審判決が確定) ↓ 2002年12月 反対住民がマンション事業者に対して、条例で定める高さ20m超の部分は違法であるとして、撤去を求める民事訴訟で、東京地裁は「特定地域で独特の街並みが形成された場合、その景観利益は法的保護に値する」と述べ、7階以上にあたる高さ20メートルを超える部分の撤去を命じる。ただ建築基準法には違反しないと指摘した。 ↓ 2004年10月 東京高裁が上記第一審判決を取消し、請求を認めない判決を出す。(2006年3月最高裁で確定) ↓ (以下部分のみ時系列逆転) 2004年2月 マンション事業者が、国立市に対し、営業妨害と損害賠償と地区計画条例の無効を求めた訴訟を提起した裁判で第一審の東京地裁が損害賠償4億円の支払いを命ずる判決を出す。 ↓ 2005年9月 上記控訴審の東京高裁では、条例は有効で営業妨害にあたるが、損害賠償を大幅に減額した2500万円の請求を認める判決を出す。 ↓ 2008年3月 上記裁判において市議会の代わりに補助参加人(周辺住民)が上告受理申立を行うも棄却され確定。 (市議会は上告断念、市長が補助参加人から委任状を集める) ↓ 2008年3月 国立市がマンション事業者に損害賠償金及び遅延損害金として3123万9726円を支払う。 ↓ 2008年5月 マンション事業者は、訴訟目的は会社の正当性を明らかにすることだったためとして上記金額と同額を市に寄付。 ↓ 2010年12月 市がマンション業者に支払った損害賠償金と同額を、市が上原公子元市長個人に対して請求するよう国立市民4人が起こした裁判で、地裁が市に対して上原元市長個人に損害賠償請求を行うように命じる判決を行った。 ↓ 2011年1月 市が「賠償金は実質的に返還されており、損害はない」として控訴。 ↓ 2011年5月 市長の交代により上記控訴取り下げ、判決の確定。 ↓ 2011年12月 市は上記判決により上原元市長に対して損害賠償金を請求するも拒否されたので東京地方裁判所に提訴。 ↓ 2014年9月 地裁が国立市の請求を棄却する判決を言い渡す。 ↓ 2015年12月 高裁が「元市長は市議会の答弁などでマンションが建築基準法に違反するような印象を与え、不動産会社の顧客の購入を消極的にさせた」として一審判決を取り消し3100万円余りを支払うよう命ずる。 ↓ 2016年12月 最高裁判所が元市長の上告を退ける決定を出し、元市長に賠償を命じた判決が確定。
こうして書いてみると17年って長いですね。 いくつか気になった点を挙げてみたいと思います。
日付はWikipediaを参考にさせてもらっていますが、本当に合っているのかな? と思わざるを得ません。 本当に合っているのなら最初の確認申請の所でちょっと引っかかりますね。
紛争予防条例に基づき、標識を設置したのが1999年10月19日。 1か月間の周知が必要なので11月19日以降には確認申請が出せることになります。提出の日付は不明ですが12月に出したと書いてあります。で、翌1月の5日には確認が下りて着工となっています。 こんなに早く確認が下りるのはちょっと、と言うか、大いに疑問です。 民間の指定確認審査機関制度が出来たのが丁度1999年ですが、Wikipediaには東京都多摩西部建築指導事務所に建築確認申請を提出となっているので民間は使わなかったようです。
役所に確認を提出し、14階建の300戸以上のマンションで、しかも年末年始を挟んだ1か月というのはどう考えても短すぎます。 更に、確認申請提出前後というのは既に近隣住民との間でトラブルになっていた頃で、国立市と東京都という異なる立場とは言え役所もいろんな面で慎重になっていた筈です。
それ以降は市と裁判所(1審)の対応が全くなっていませんね。 後出しじゃんけんの条例制定と言い、出来上がったマンションの高層部分の撤去命令と言い、当時も笑って見てましたけど、こうして振り返ってみるとつくづくアホな対応だなと思っちゃいます。 どうせ1審だし、控訴審に行けばひっくり返るだろう、ここは住民側に沿った判決を出してやろう、などと地裁の裁判官が思っているとしたらとんでもない話です。
反対運動が起きてから地区計画を作り始め、臨時市議会を開くまでしての異例の速さでの条例化と言い、確認申請期間の驚くほどの短さと言い、この騒動の裏にはまだ表に出ていない何かがあったような気がするのは私だけじゃないような気がします。
マンション工事中に建築禁止の仮処分を申し立てているにも関わらず、その時点では却下しておきながら完成後に20mから上の部分を撤去せよとのばかげた1審判決の取り消しは当然として、一連の裁判はマンション事業者ペースで進んでいます。 それ以前にも建築関係者の間では認識されていた根切り工事=工事着手という解釈が確定したことやそれに伴う不遡及の原則が適用されたこともマンション事業者側の主張が正しかったことになります。
それに比べて市側の対応は後手後手に回っています。しかも空回り。 極めつけは最後の裁判での元市長の敗訴です。 以前から景観保護の市民運動を行っていた上原元市長が、住民にマンション建設阻止を促したり、市議会で建設は違法だと答弁したりしたことを「不法行為」とまで認定しました。
「建築基準法に物申す-容積緩和」でも書いていますが、地方自治体が物事を制限するような条例というのは一見市民を守っているようで、片や権利や財産を奪う事にもなります。 この場合もこのマンションは既存不適格になりました。 まあ立地条件も良い場所ですし、今後は近くにこのような大規模マンションも出来ないでしょうから(条例で事実上不可能)資産価値はそれほど下がらないんでしょうね。 いや、もしかしたら希少価値という付加価値が付くのかな?
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建築基準法に物申す(7)-シックハウス対策 建築関連での独り言 / 建築基準法に物申す |
1219-2016 |
「建築基準法に不満あり」と、実務を経験したことのある人は多かれ少なかれ誰しも感じていることでしょう。 という事で、今回はシックハウス対策について。
またの名を24時間換気とも言います。 一時期社会問題化した「シックハウス症候群」対策として法改正されたものです。
シック(Sick)を直訳すると病気ですが、新築住宅に入居した人の、頭痛、喉の痛み、目がチカチカする等の症状と家(House)を合わせたものがシックハウスという造語です。 新車も独特の臭いがしますが、シックカー症候群という同様の症状が報告されているそうです。
食品でも近年アレルギー患者が増加し、原材料の表示が行われていますが、食品はアレルギーの原因になるものを摂取しなければ良いのに対して、家はせっかく建てたのに住まないわけにはいきません。 という事で法改正されたのが、建材の使用制限と換気設備の強制です。
まずは材料規制への疑問
どういう規制が行われているかというと、有害な化学物質を含んだ建材の使用量を制限しようというものです。ホルムアルデヒド(接着材などに使われる化学物質)の発散量を「F☆☆」「F☆☆☆」「F☆☆☆☆」という等級分けして床面積に対する使用量の上限が定められました。 「F☆☆」は床面積の0.3倍まで、「F☆☆☆」は床面積の2倍まで、「F☆☆☆☆」は無制限です。
話は少しそれますが、 最初は重宝して使われた物質が、後に使用禁止になった例は数多くあります。 石綿(アスベスト)、フロン類、発がん性食品添加物、等々。 特に石綿などは、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性から「奇跡の鉱物」と称され建材などにも多様されてきましたが、肺癌や中皮腫の誘因となることが指摘され、現在は使用を禁止されています。
シックハウス症候群は建材や塗料に含まれる化学物質(ホルムアルデヒド等)が原因だと判っているのでその物質を制限すれば良いわけで、床面積に対する使用量の制限などナンセンスだと言わざるを得ません。 日本のメーカーは優秀ですからね。建材メーカーだって馬鹿じゃありませんから、「F☆☆」の製品なんて作るわけがないんです。 この法律が施行されるまでの周知期間中に殆どの製品が「F☆☆☆☆」になってしまいました。
現在の日本に存在しない(たぶん)「F☆☆☆」以下の製品を使用制限するために、いまだに確認申請では仕上表の添付を義務化しています。そろそろ簡素化しても良い頃だと思うのですが…… 国交省さん。
次は24時間換気への疑問
シックハウス対策には上記の材料の規制に加えて「強制的に換気しなさい!」という決まりもあります。 住宅の場合で、0.5回/h以上(1時間に部屋の半分の空気が入れ替わる量)の常時換気設備が必要になります。 ただし、例外があって、真壁造の建築物の居室で、外壁、天井及び床に合板その他これに類する板状に成型した建築材料を用いないものは機械換気不要とあります。
その理由が思わず笑っちゃうくらい傑作なんですね。 別途の措置が講じられているためだそうです。 つまり、隙間があるから機械での強制換気はしなくても良いということです。 それと同じように扱うために、常時外気に開放された開口部と隙間の換気上有効な面積の合計が、床面積1㎡当たり15c㎡以上設けられた居室も機械換気不要とあります。 1㎡当たり15c㎡というのは、6帖の部屋だと約149c㎡ですので、直径13.8cmの穴が空いていればクリア出来る計算になります。 いくら国交省が「隙間風があれば建築基準法に違反しませんよ」と言おうが、壁に塞げない穴を開けるのもね~(-_-;) 20帖のリビングだと直径25cm以上にもなるし……
建築基準法には「断熱材」の規定はありません。 しかし品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)では断熱等性能等級を定めており、フラット35では断熱性能の高い住宅の金利の優遇も行われています。 高断熱高気密住宅と換気は矛盾しますよね。 建築基準法では換気換気と言いながら、品確法では断熱断熱ですから。 一般消費者は迷いますし、建築関係者だってどう説明したらいいか……
熱交換型の吸排気一体型換気扇を使用してのセントラルヒーティングでの高断熱高気密住宅が理想なのは判りますが、先立つものが……
話がそれましたが、費用対効果の面から現在では排気だけを機械で行う第三種換気設備が最も普及していると思います。浴室、又は洗面所、もしくはトイレの換気扇を24時間対応の機種(強と弱の切り替えがある)にするだけですから。 それに、この法律が出来たばかりの頃は、24時間換気対応の浴室換気扇などは切スイッチが隠れ場所にあって完全に停止させるのに手間がかかったものですが、現在はそんなことはないようです。 つまり、24時間作動させるか切るかは使用者の判断で可能という事です。
こうやって改めて考えてみると、換気扇といい材料規制といい、建築基準法で規制するような問題じゃないような気がします。ホルムアルデヒドの建材への使用は厚生省か環境省で規制すればよく、換気扇などは現在の窓の無いトイレへの義務化を全てのトイレに拡大すれば済む話です。トイレの無い家はどうするか? う~ん、どうしましょう(苦笑)
こうして意味の無い条文がどんどん増え、建築基準法はますます陳腐な法令となっていくのであった……。
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天窓の採光計算 備忘録 / 建築関係 |
2016年12月20日 17:31 (TUE) |
天窓は通常の垂直の窓よりも3倍の採光能力がある、という事で、何の疑問もなく単に窓面積を3倍して採光計算をしてきました。
ところが、最近天窓にも採光補正係数算定式に採光関係比率を代入して算出するという事実を知りました。 私だけが知らなかったの? かな? 汗 建築基準法のどこを見てもそんなことを書いてないぞ! と突っ込みたくなりますが、冷静に考えると、なるほどと納得できますね。
天窓の採光計算 ←ここで、絵付きで解説してあるので参照してください。
天窓の計算も出来るエクセルの『採光チェック表』もダウンロードできます。
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大規模の修繕・大規模の模様替への疑問 未分類 |
2016年12月25日 11:18 (SUN) |
街を歩いていると既存のマンションの周囲に足場を立ててシートで覆っている光景をよく目にします。 マンションの経年劣化等に合わせて実施する計画的な修繕工事、いわゆる「大規模修繕工事」と言われるもので、おおむね10年毎に行われます。
建築基準法では、特殊建築物である共同住宅は、大規模の修繕・大規模の模様替は確認申請が必要となっています。 という事で、大規模の修繕について調べてみました。
「大規模の修繕 定義」でぐぐると以下のページにたどり着きます。
国土交通省 > ホーム > 政策・仕事 > 住宅・建築 > 住宅 > マンション政策 > マンション建替え等・改修について
その中にある ●改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル 参考(PDF)
というページの一部を抜粋したものが ↓ です。(クリックで拡大)
簡単にまとめると。 大規模の修繕とは、概ね同じ材用いて原状回復を図る。 大規模の模様替とは、原状回復を目的とせずに性能の向上を図る。 ということになります。 建築基準法の第二条よりも詳しく解説してあります。同じ材料を使うのが修繕で、瓦屋根を鉄板屋根、板張り外壁をサイディング張りにするのが模様替ということですね。
続いて以下のような文章もあります。
国土交通省のホームページ内の文章ですので、大規模の修繕・大規模の模様替の正式な定義と解釈しても良いと思われます。
しかし、ちょっと気になる言葉が。 赤線を引いたこの部分です。 「大規模修繕等の計画修繕に伴う改修工事については、大規模の修繕又は模様替えにあたることは少ないと考えられます」
これって、冒頭に書いた既存のマンションでよく行われている「大規模修繕工事」は確認申請不要という事でしょうか?
同じ国交省で出しているマンションの「長期修繕計画作成ガイドライン」によると 外壁のコンクリート補修=12年周期 屋上防水(露出)の撤去・新設=24年周期 となっていますが、これらは確認申請不要なのでしょうか?
もう一度定義を確認します。 大規模の修繕とは、概ね同じ材用いて原状回復を図る。
これは私見ですが、外壁に関しては、例えばタイル貼りの場合は洗浄+部分的な補修であり、吹き付けタイル等の塗装仕上げの場合は洗浄+補修+塗り増しなので確認申請対象外と思われますが、屋上の露出防水の撤去・新設って、確認申請の必要な大規模の修繕に該当しますよね? 国交省さん。どうなんでしょう?
国交省の参考文章の全文(PDF)はこちら →
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瑕疵担保責任保険 建築関連での独り言 |
2016年12月30日 17:21 (FRI) |
住宅供給事業者、つまり不動産業者および建設業者は「瑕疵担保責任保険」に加入しなければならない。 車の自賠責保険は全ての車両への加入が義務づけられている損害保険であるので「強制保険」という呼び名が一般化しているのに対して、「瑕疵担保責任保険」の方はそういう言われ方はあまり聞いたことがありません。 しかし、実態は車の「強制保険」と全く同じなのでもっと『強制』という呼び名が普及してほしいものです。
ただ、保険加入を義務付けされているわけではなく、住宅瑕疵担保履行法では供託もしくは保険加入のいずれかの措置でも可となっています。 しかし、現状では供託している事業者は圧倒的に少数派です。しかし、大手の事業者です。(ここ、大事) 供給戸数の多い大手事業者は「掛け捨て」の保険料を払うよりも積み立てに近い感覚の供託を選択しているようなので『強制』という呼び名が普及しない一因になっていると思われます。
少し古いデータですが国交省が公開している資料があります。 平成23年10月1日から平成24年9月30日の1年間に新築住宅を引き渡した戸数と、保険に加入したのか補償金を供託したのかを区分けした戸数です。
1年間に引き渡した戸数は797,731戸で、建設業者と宅地建物取引業者を合わせた事業者数は41,534事業者でした。
その内、保証金の供託は 373,193戸(46.78%) 保険への加入は 424,518戸(53.22%) で、ほぼ半数ずつといった感じです。
ところが、事業者別に分けてみると 保証金の供託のみは 230事業者(0.55%) 保険の加入のみは 41,212事業者(99.22%) 供託と保険を併用は 92事業者(0.22%) となります。
これは何を意味するかというと、事業者全体のわずか0.55%の230事業者が全体の約半数の住宅を引き渡したという事です。 ちなみに、建設業者および宅地建物取引業者は、年2回の基準日ごとに引き渡した新築住宅の戸数および資力確保措置の実施状況の届出義務があります。実績が無くても「0戸」として届け出なければなりません。
大手による寡占と住宅瑕疵担保履行法は直接の関係はありませんが、届け出た60,364事業者のうち32,754事業者は引き渡し戸数「0戸」として届出しており、中小の零細企業の実態が垣間見れる事となりました。
それともう一つ『強制』という呼び名が普及しない一因として、後述しますが保険金の支払い方も影響していると感じます。
そもそもこの制度が出来たきっかけは、建築業界のみならず日本全土を巻き込んだ構造偽装事件が発端なのですが、事件発覚当初は建築確認制度の不備等々と散々叩かれた国土交通省はこの事件を利用することによって 利権拡大、天下り先確保、住宅製造販売事業者の監視強化という果実を手に入れることになりました。
この保険料ですが、表向きは建設業者または宅地建物取引業者が支払いますが実際はどうなんでしょう? 工務店などは工事費の見積の中に入れているようです。という事は最終的には建築主負担です。国税庁のHPでは建設業者の損金に算入して差し支えないとありますが……
車の自賠責保険だって、それだけじゃ被害者への賠償としてはとても足りないので追加で任意の保険に入ります。自分の過失によってもたらされる結果に自分で責任を持つために高い保険金を払うわけです。 しかし、住宅の「瑕疵担保責任保険」は自分の過失ではありません。瑕疵とはうたっていますがその中には工事業者による手抜きもあるでしょうし、技術に対する未熟さや認識不足が原因の場合もあるかもしれません。
国交省は住宅瑕疵担保履行法を基本的な構造耐力性能(躯体の強度)に防水性能を混ぜ合わせ、しかも瑕疵などという言葉を織り交ぜて論点をぼかしていますが、本来は構造偽装が発端であった筈です。
構造偽装(のような詐欺又は手抜き)があるかもしれない前提で住宅購入者に保険料を払わせるなどという仕組みを住宅購入者が知ったらきっと腑に落ちないと思うでしょうね。
それから、この保険には現場検査が必須となっています。 保険会社に建築の専門的な事に精通した検査員がいるわけではなく、実際は指定確認検査機関の資格を持った係員が検査を行います。 木造2階建の場合では、基礎配筋と屋根工事完了時(筋かいが見える時期)の2回があり、特定工程が指定されている場合では全軸組み緊結時とラップします。 建築基準法の中間検査と瑕疵担保責任保険の検査は必ずしも同じ機関とは限らないので、両方を引き受けた審査機関は経費を節約できるのでラッキーですが、いずれにしても何回も同じような検査があるのは一緒です。 つまり国交省の利権の拡大ですね。
国土交通大臣と言えばここ何代も公明党が担当しています。陳情等で利権が集中しやすい大臣だからなのかは知りませんが、どうも別の弊害が表れているような気がしてなりません。 最近の流行語ですよね、ポピュリズムって……。
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